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【読書ログ】『殺戮にいたる病』を読了

殺戮にいたる病の表紙

今まで私の読書形態はもっぱら紙媒体だった。
別に電子書籍を嫌っていた訳ではなく、何となくで近所の本屋へ通っていただけだが。
ところが先日、Amazonタブレットを購入した際に、Kindle Unlimitedの3ヶ月無料特典がついてきたので試しにいろいろと読んでみることにした。

ということで最初に読了したのが、
『殺戮にいたる病』です。
読む前は知らなかったのだけれど、どうやら25年も前の作品らしい。
作中でふと、スマホとか携帯電話が出てこないのを不審に思って『これは若しや時間のトリックなのか?』と考えたが違った。

話は蒲生稔蒲生雅子樋口武雄の三人の視点から描かれる。

一人目、蒲生稔は女を愛す為に殺害する、言わばサイコキラーだ。

犯される性はすなわち殺される性であった。
我孫子武丸. 新装版 殺戮にいたる病 (講談社文庫) (p.41). 講談社. Kindle 版.

この言葉がなかなか強烈だった。
終始言動も考え方も現実離れしているから、時々啞然としてしまって、また、時に気分が頗る悪くなったりもした。
殊に肉切り包丁で女性の下腹部を切り裂き、子宮を切除する場面は悪心を覚えた。


二人目の蒲生雅子は自身の息子が殺人を犯したのではないかと疑い始める。
雅子は稔とはまた別の気持ち悪さがあった。
息子への執着が酷く(まあ殺人を疑い始めたのだから当然かもしれないが)、本人がいない間に部屋のごみ箱をあさったり、自慰行為を低俗な行為とみなし息子のそれを制限させようとしたりとなかなか歪んでいる。
おまけに子供たちは夫と私のものではなく私だけのものだと言い出したりと絵に描いた毒親である。

彼らのことを「夫の」子供だとか、「 わたし達の」子供だと考えたことはない。どちらも「わたしの」子供でしかなかった。
我孫子武丸. 新装版 殺戮にいたる病 (講談社文庫) (p.12). 講談社. Kindle 版.

私の親がこのような人間でなくて良かったと心底感じた。


三人目である樋口武雄は元刑事で現在は独り身の男。
これら三人の中では唯一感情移入できた人物だと思う。

それからゆっくりと彼女との最期の日のことを克明に思い出して初めて、妻がとうに─ ─ 二週間前に、一ヵ月前に、あるいは半年前に─ ─ 死んでいるという現実を認識するのだった。
我孫子武丸. 新装版 殺戮にいたる病 (講談社文庫) (p.15). 講談社. Kindle 版.

妻が入院していた際に病院で知り合い、妻が死んだ後も度々見舞いに来てくれた島木敏子という女性が殺されたことから、彼はその事件を追っていく。
個人的に樋口は感情移入させる為の登場人物として描かれているのではと考えた。
猟奇的殺人者へ同情するのは困難だからだ。
終盤で彼が殺人者を追いかけるシーンは疾走感があり、ついつい地の文を読み飛ばしてしまうくらいに次のページを欲してしまった。


全体的に上手くミスリードを誘ってはいるが、中盤あたりで大体の犯人像が分かってしまったことは残念だった。
ただ、叙述トリック物として一読の価値はあったと思う。

ネタバレを避けたいのであまり詳しくは話せないけれど、確かなのはAmazonのレビューは見ないべきということです。
後から見てみたら面白いネタバレがあって笑ってしまった。